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星宮智光

智慧の世界を説く『金剛頂経』


智慧の世界を説く『金剛頂経』

真言密教では、わたしたちの住むこの世界宇宙を慈悲の働いている側面(胎藏界)と智慧の働いている側面(金剛界)の二面からとらえる。その胎蔵界について大日経が、金剛界については金剛頂経がその生々とした実相を詳しく説いている。胎蔵界および金剛界の両界の曼荼羅はこれら両経の説くところを視覚的に絵画表現したものである。このように両経は密教の最重要経典であるが、天台密教ではこれに蘇悉地経を加えて三部の秘経としていることはすでに述べたことがある。さて、今回は金剛頂経について解説案内してみたい。

不空三蔵(中国当中期)の漢訳『十八会指帰』によると、いわゆる『金剛頂経』の完全な原本は十会一万頌という膨大な大冊であったという。漢訳にはこれの完全な翻訳はなく、部分訳が六種だけ伝わっている。一般に金剛頂経という場合は、そのなかの不空による部分訳の金剛頂経三巻を指しており、天台密教においてもこれを所依の根本経典としている。

正式の名称は、金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経というが、略して金剛頂大教王経あるいは金剛頂経、三巻教王経、教王経などと呼んでいる。

伝承によれば、金剛薩がこの経典を結集し南インドの鉄塔のなかに入れておいたところ、仏滅七百年のころに龍猛(龍樹)が文殊菩薩の教示によってこの鉄塔内に入り、金剛薩から金剛界五部の潅頂を受け、この経典を拝読して初めて世間に流布することになったという。そこで、龍猛から龍智へ、龍智から金剛智へ、金剛智畏は中国に伝えて、不空、一行、善無畏に伝えた。不空のもとには恵果(空海の師)、順暁、惟象(二人は最澄の師)がいて、この密教は日本に伝えられたのである。なお、金剛頂経は鉄塔内において相承をうけたので塔内相承というが、大日経はこれと関係ないので塔外相承といわれる。

金剛智三蔵は南インドからベトナムを経由して海路で中国に渡来し、唐の開元八年(七二〇)に都に上り、同十一年、資聖寺において金剛頂瑜伽中略出念誦経四巻を訳出した。これは金剛頂経原本のうちの第一会の四大品の略出本の漢訳であった。不空は初め金剛智とともに中国に渡来してきたが、金剛智の遺命によってインドに帰り龍智から直接に五部の潅頂を受け、多くの梵語(サンスクリット)経典を持って天宝五年(七四六)に再び中国に渡来し、経軌百二十巻余を漢訳したが、そのなかに金剛頂経三巻がふくまれていた。

金剛頂経の原本は十八会十万頌という膨大な内容であったが、このうち最初のダイイチ会の四大品(金剛界品、降三世品、遍調伏品、一切義成就品)のなかの金剛界品に説かれ説かれる六曼荼羅の最初の金剛界大曼荼広大儀軌のみを訳出したのが、金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経、すなわち金剛頂経三巻である。金剛頂経原本の冒頭部分の略出の漢訳ながらもこの二巻金剛頂経はなぜ重視されるのか。

この経の最も重要な注釈書とされる慈覚大師の金剛頂経疏七巻によると、この経は法界体性の毘盧遮那如来が阿字本不生の真理に住して説法されたもので、四種曼荼羅をもって横には法界を包みこみ、五種の無際の智をもって竪に三世の源低を究めつくすものである。つまり、阿字本不生の一真実を明らかにする。さらに五部秘密の修行と三密加持の勝法をもって毘盧遮那如来五智遍法界の覚体を証得することが、この経のねらいである。この経は三巻から成っている。

一、金剛界大曼荼羅広大儀軌品(上巻)
二、大曼荼羅広大儀軌品(中巻、下巻)

この経の概要は、初め序文において智法身の大日如来が金剛手らの八大菩薩および十六大士らの聖衆生とともに阿迦尼托天王宮に住してこの経を説くと述べる。正宗分では、初めに一切義成就菩薩が秘密仏の驚覚開示によって五相成身観を修することを明かす。これによって、菩薩は潅頂を受け、金剛名を金剛界菩薩と号し、菩薩は自身如来を証し、金剛界如来となり、平等智三昧耶に入って時性情浄を証する。また金剛より出で、阿迦尼托天より那弥山頂の金剛摩訶宝峰楼閣に降って、化儀を垂れるために一身より十六大士、四波羅密、八供、四摂等を示現し、諸尊は百八名をもって如来を讃歎したことを述べる。つぎに金剛界大曼荼羅を説く。ついでこれに基づき潅頂を行い、入壇潅頂の儀軌を説く。さらに、弟子の願いにしたがって、出生、神通、持明、最勝の四種悉地成弁諸真言、ならびに大印成就の儀則、一切印を結ぶ儀則等を教えることを明かす。

この金剛頂経三巻の日本語訳は国訳一切経の密教部二にみられる。密教経典は阿字本不生の悟境から説かれたものであるから、つねに伝法阿闍梨の指導のなかで拝閲しないと誤解を生むと教誡されている。

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